下記左はIMF(国際通貨基金)の世界各国のGDP予測数値です。コロナ対策の影響を比較した右のグラフは米国の一人負けを予測しております。

なぜ米国がコロナ対策の影響を酷く受けるか?この原因を明らかにすることが日本の予測に直結します。
米国は対策が遅れた上に、ニューヨーク州がロックダウンを強力に実行しました。更に州ごとの政策のばらつきが目立ちます。日本の4月以降の特措法による緊急事態宣言から、5月の39県解除への動きは米国の政策に似た面があります。

世界の予測は対策を強化したり緩めたりを続ける中で、第2波第3波が訪れること、有効なワクチンが実用化できない限り長期化は避けられないこと、などが定説となっております。しかしながら先進国の多くは経済優先でコロナ対策を緩和の方向に向かっています。世界の動きに合わせたのか、安倍首相は「コロナ対策と経済対策の同時化」を主張しております。これはかなり都合の良い、いい加減な政策と云わざるを得ません。そしてこの見方はかなり甘いのではないかと危惧されます。

日本はこの時期に、緊急事態宣言を39県に対し解除しました。特定警戒都道府県8に対しては21日に解除か続行かを判断するとしています。このいずれの決定に関しても科学的な根拠のある数値の裏付けが無く恣意的な印象を強く受けます。

元々オリンピックを背景に、コロナ危機を裏付ける数値を隠す傾向がが日本には存在したのです。そのためかどうかは分かりませんが、感染者数をコントロールする必要が生じたことは当然の成り行きでした。

その後オリンピックの延期が決まり、PCR検査数が世界標準から異常に低く日本の数字は信用できないと云う批判が内外から続出すると、当局は一転して検査数を上げる姿勢を示し始めました。しかしこの言葉とは裏腹に実際の数値の上がり方は緩慢でした。目詰まりが問題になったのですが、意外にも複雑に絡み合う行政組織の中で緊急時への対応が体質的に難しいことが明らかになりました。この問題はその後の休業補償や定額支給、マスク配布などでも露呈しました。

東京都の小池知事は「自粛と経済活動の両立を図る」と発言しました。緊急事態宣言解除の際、安倍首相も同じような発言をしました。こんな都合の良いことが現実的に可能なのでしょうか?

ロックダウンと経済活動再開とは二律背反であることは何度も申してきました。うがった見方をすれば、「自粛と経済活動の両立を図る」と云うことは建前であり、本音は「自粛による制約から生ずる補償をこれ以上増やさないため、経済活動を許す」と云うことではないでしょうか?

お気づきと思いますがここでも数値をコントロールする必然性が出てくるのです。コントロールと云えば善意の意図も含まれるのですが、悪く言えば恣意的に歪曲すると云う事でしょう。

アベノミクスは成功したと云ってきた手前、今更財政負担が困難とは言えないしょう。例によって日銀の「営業毎旬報告」を調べてみました。コロナ前の2月10日と5月10日現在の主な数字を比較してみました。

主な項目     2月10日、5月10日、増減 (単位兆円)

(資産の部)
国債         487.8、493.3、+5.5
金銭信託(ETF)    28.6、31.4、+2.8
貸付金        48.6、55.0、+6.4
外国為替        6.7、30.6、+23.9

(負債の部)
発行銀行券      108.7、111.7、 +3.0
当座預金       390.8、406.3、+15.5
売現先勘定        0.1、18.8、+18.7

(貸借対照表合計)  579.9、619.7、+39.8

国債があまり増えていないのは、外国為替・売り現先勘定との関係があると思われます。
外国為替の注書きには次のように書かれています、「外国為替」に計上しているのは、外国中央銀行、国際決済銀行への預け金、外国政府等に発行する国債等、外貨投資信託および外貨貸付金(米ドル資金供給オペレーションによる貸付金および貸出支援基金の運営を成長基盤強化を支援するための資金供給における米ドル資金供給に関する特例による貸付金等)である。

別の注書きには国債を米ドル貸付金に関する担保として国債を充てると云うものがありましたので、国債があまり増えていない原因が何かあるのではないかと思いました。そして国債が増えていない理由に、反対勘定の売現先勘定が関係しているのではないかと云う疑問を持ちました。

発行銀行券が増額したのは最近では異例のことでした。いよいよ踏み切ったかと云う印象です。しかしそれにしては少額すぎます。マネーストックが増加するのは近年なかったことで、いよいよインフレ政策かなと思いました。それにしては少額すぎ、金利上昇を警戒しているのかもしれません。

日銀としては政府が対外的に一流国の体裁を保つ事に協力するため大変苦労している様子が見えてきます。更に、おカネの支出を抑え貸付金に重点を置いている実態をまざまざと見せられた感じです。日銀が国債の上限を外しETFの購入を大幅に増やすと公言したことは果たして本気なのか疑わざるを得ません。

政府の要求をすべて満たすことは到底不可能であること、黒田総裁のご苦労を察することにあまりがあります。これも身から出たサビでしょう。

最後に代表的エコノミストの2020年度の予測を掲載します。

みずほ証券チーフエコノミスト上野康也氏の経済予測(東洋経済)

Q. コロナの感染拡大が長引いた場合に、日本経済に起きる大きな変化、中長期的なリスクは?
感染防止策によるブレーキと景気刺激策によるアクセルのはざまで、つねに不安定な経済状況が続くことになる。消費性向は構造的に低下するだろう。オフィスビルの需給は大きく悪化する一方、IT関連のニーズは堅調になる。

Q. コロナ危機をきっかけに起きると思われる注目すべき日本社会の変化は?
すでに以前から起こっていることだが、従来の常識がますます変わっていくのではないか。テレワークの一層の普及、終業後の飲み会といった社内行事は 衰退する。構造不況的な業種での淘汰が加速していくとみている。

Q.直近の成長率予測は?
20年4~6月:マイナス18.9%、20年度通年:マイナス6.3%

日本経済は、基礎的生活必需支出によって成長した比率よりレジャーやインバウンドなどの不要不急の支出によって成長してきた比率の方が大きい。このことは、コロナ後の経済がどうなるかについて、新しい生活様式が元に戻らないことを示唆しています。「不要不急の需要」の復活は殆ど期待薄です。

「今は財政赤字のことを考えているときではない」というのは、通常は財政赤字のことを考えている人々、財政節度を心がけている人々だからこそ、言えることである。日頃からこうした姿勢に欠けている者たちには、かえって、ここぞというときに思い切った行動が取れないのである。これはある経済学者の発言でした。

次回は政権内の対立の表面化がコロナ対策と経済対策にどのように影響するかについて情報提供する予定です。

参考:
最近、米国のフォーリンアフェアーズ(FA)」がスウェーデンの集団免疫策を礼賛する論文を発表した。FA誌が集団免疫策を礼賛したのは、都市閉鎖策の長期化と愚策性、米国覇権を自滅させる特性に気づき、いまさらながらに世界のコロナ対策を集団免疫策に転換したがっているからでないか。(田中宇・国際ニュース解説)