年初にご紹介した河岡義裕教授へのインタービュー記事をまとめた「新型コロナウイルスを制圧する」と云う本に基ずき、まず基本的なところからスタートしたいと思います。

正確を期するため著書の一部を抜き書きする形となりますが、解説も交えてお伝えするのでご容赦いただきたいと思います。「カッコ内」が抜き書き、その他が解説と考えてください。

「コロナとは王冠を表しますが、コロナウイルスは外側にスパイクと呼ばれる突起があるのが特徴です。このスパイクは鍵だと考えてみてください。人間などの生物の細胞表面には受容体である鍵穴が存在します。コロナウイルスの鍵をこれにはめることで、ウイルスは細胞に侵入し、感染が成立するのです。
スパイクはSタンパク質から成り立っています。このSタンパク質が細胞の受容体に結合することで、ウイルスは細胞に侵入します。」

ところで最近話題となっているワクチンには大きく分けて生ワクチンや不活化ワクチンがありますが、注目は遺伝子ワクチンです。遺伝子ワクチンには、DNAワクチンとメッセンジャーRNAワクチンがあることはご承知の通りです。

東京大学医科学研究所の石井健教授のグループは、生ワクチン・不活化ワクチンの研究を基礎にmRNAワクチン(メッセンジャーRNAワクチン)の開発を企業とともに進めております。

日本政府はファイザーやモデルナ等の外国メーカーに依存する姿勢のため、国産ワクチンには僅かしか開発資金を投入しておりません。その規模は外国企業の開発資金に比べて十分の一以下です。

それでは国産ワクチンの開発について、東京大学医科学研究所の河岡教授や石井教授はどのように考えているのでしょう?

「メッセンジャーRNAワクチンの開発から臨床研究までのプロセスでは、まずはmRNAを作成してマウスに投与します。人間と同様に4週間もすれば抗体ができるのでそれがウイルスの増殖を抑制するかどうかを、細胞を使って観察します。マウスでそのことが確認されれば、次はハムスターで実験します。ハムスターは新型コロナウイルスが増殖する動物だからです。ウイルスが身体に侵入することと、感染して病気になることは別です。ウイルスが入っても、細胞に侵入することをmRNAワクチンで防ぐことが出来れば、病気にはなりません。
ここで効果が認められれば、人に摂取することができるワクチンを作成します。GMPと云う医薬品製造と品質管理の基準があり、人に対する医薬品の場合は、高い基準の施設で製造しなければなりません。その上で、このワクチンをサルなどの動物に摂取して、毒性と有効性を検証します。そのデーターをもって、ようやく人を対象としてワクチンの有効性や安全性を確かめる臨床試験となります。この段階を第一相といいます。
次に用量などを確かめる第二相、更に多数の人を対象にして効果を見る第三相試験まで行い、ここで承認されてようやく、ワクチンとして実用化できるのです。WHOはワクチンの開発までに12か月から18か月を想定していると云っています。これはすべての過程がうまくいっての話です。拙速な実用化は弊害も大きく、望ましくないと考えております。」

東京大学医科学研究所の河岡教授はこれまで不可能とされていたインフルエンザウイルスを人工的に作る技術を世界で初めて開発、エボラウイルスの人工合成したワクチンの臨床研究も行った実績を持っております。ウインスコン大学で動物実験のノウハウを蓄積し、ウイルスを人工的に作る技術(リバース・ジェネティクス)についての世界的権威です。

日本では子宮頸がんのワクチンを打った副反応で人が苦しむ苦い経験があります。
新型コロナウイルスでは、ADE(抗体依存性感染増強)が副反応の最大の問題です。東京大学医科学研究所のワクチン開発は動物実験から始まり非常に地味な、むしろ嫌われる実験から踏み込んでおります。従って時間がかかるのは当然です。実験動物もこの過程で最適なものを発掘しております。

「研究者は賢すぎない方がいいような気がします。賢いといろんなことを考えすぎてしまい、手が動かなくなります。もちろん、ものすごく賢い人はいいと思うのですが、中途半端に賢いと、どうも新しいことを見つけることができない人が少なからずいます。あまり考えずに、まずは手を動かすほうが運を引き寄せられるかもしれません。」

河岡教授と石井教授のグループは踏むべきステップを確実に進め、到達したときに必ず国産ワクチンや治療薬が注目される時期が来ると信じております。その時期は目途がつくのが今期末、実用化が来期後半と踏んでいるようです。急がば回れで、地味で着実な計画を信じるしかないでしょう。

次回は突然現れた変異種、英国型と南アフリカ型の実態に触れてみたいと考えます。どうやらマイナーチェンジでなくフルヴァージョンアップのようです。新新型かもしれません。

最後に石井健教授の講演、日本記者クラブの動画を添付しておきます。


 

東京大学医科学研究所の河岡義裕教授はウイルス学の世界的権威です。これまで不可能と云われたインフルエンザウイルスを人工的に作る技術を世界ではじめて開発、エボラウイルスの人工合成をしたワクチンの臨床研究も行っている。ウインシコシン大学教授も兼任し、アメリカ科学アカデミーの会員であり、国際ウイルス学会会長を務めた。
(中略)
河岡教授はウイルス学の専門家でもあり、ウイルスそのものの性質に深い知見がある。新型コロナウイルスの特性を最も知る一人であろう。

以上は表題の書籍の「まえがき」の一節です。昨年末英国と南アフリカから新型コロナウイルスの変異種の感染が広がり世界規模で脅威が高まりました。今年の最大の関心事は少なくとも2021年前半は多分これに尽きるのではないかと考えております。

変異種についての専門的知識は、私を含め殆ど無知と云ってよいほどの状況です。三段論法で言えば、無知は間違った選択を生み、間違った選択は社会的不幸をもたらす。

このサイトの今年のテーマは新型コロナウイルス(正式ウイルス名は「SARS-CoV-2」、疾患名はCovid-19」だそうです)に集中するでしょう。情報を集めてご紹介する中で間違いが出てくる恐れが多分にあるでしょう。

以前にもご紹介した東京大学医科学研究所の河岡義裕教授はこの問題の指標を示してくれる唯一の存在だと思います。表記の書籍は昨年7月に刊行されたもので、問題の変異種については必ず近い将来第2第3のパンデミックを招来することを予測されております。「新型」と云っていたら次に新しいコロナウイルスが出てきたら「新新型」とでも呼ぶのだろうかと疑問を呈し、正式名称で呼ぶようにするべきと主張されております。

河岡教授の「英国・南アフリカの変異種」についての見解をご紹介できる機会が近いうちに必ず出てくるでしょう。
その準備行動として正確な基礎知識を標記の書籍の読後感を通じて次回よりご紹介したいと思います。
勿論間違いないと思われる他の情報は積極的に取り上げていく方針です。