新型コロナウイルスの感染蔓延状況

私は医療関係の専門家ではないので、今回の感染症に関しては新しい所見を述べることは出来ません。従って過去の記録を調べ「その記録に基づいて過去にあった事実を述べ、そのうえで現在の状況に対して指摘することが私にできる唯一の情報提供のあり方」と考えております。

2003年のSARSコロナウイルス、2009年の新型インフルエンザ、2015年のMERSコロナウイルスと、新型ウイルスは定期的に流行しています。それ以前にも、1918年の「スペイン風邪の世界的流行」のように突然変異ウイルスによるパンデミック(感染爆発)が存在しました。
注)
SARS:2003年中国で起きた重症急性呼吸器感染症で、コロナウイルスが病原とされる感染症です。
MARS:2013年に中東で起きた新型コロナウイルスの感染症です。
末尾のBloomberg Businessweekの世界のウイルス感染データーを参照してください。

今回は記録されたパンデミックでは初の、スペイン風邪に注目しました。それは次の通り記録されております。

1918年から1920年までの約2年間、新型ウイルスによるパンデミックが起こり、当時の世界人口の3割に当たる5億人が感染。そのうち2000万人~4500万人が死亡たのがスペイン風邪である。現在の研究では、そのウイルスはH1N1型と特定されている。

このスペイン風邪によって、最終的に当時の日本内地の総人口約5600万人のうち、0.8%強に当たる45万人が死亡した。1945年、東京大空襲による犠牲者は10万人。日露戦争による戦死者約9万人を考えるとき、この数字が如何に巨大なものかが分かるだろう。単純にこの死亡率を現在の日本に当てはめると、120万人が死ぬ計算になる。これは大阪市の人口の約半分にあたる。

当時の内務省の告示(内務省,143-144)

● はやりかぜはどうして伝染するか
はやりかぜは主に人から人に伝染する病気である。かぜ引いた人が咳やくしゃみをすると眼にも見えないほど細かな泡沫が3、4尺(約1メートル)周囲に吹き飛ばされ、それを吸い込んだものはこの病にかかる。

●(はやりかぜに)かからぬには
1.病人または病人らしい者、咳する者に近寄ってはならぬ
2.たくさん人の集まっているところに立ち入るな
3.人の集まっている場所、電車、汽車などの内では必ず呼吸保護器(*マスクの事)をかけ、それでなくば鼻、口を「ハンカチ」手ぬぐいなどで軽く覆いなさい

●(はやりかぜに)かかったなら
1.かぜをひいたなと思ったらすぐに寝床に潜り込み医師を呼べ
2.病人の部屋はなるべく別にし、看護人の他はその部屋に入れてはならぬ
3.治ったと思っても医師の許しがあるまで外に出るな

お気づきと思いますが、100年前の政府の対応が現在もほとんど変わっていないのです。学校の一斉休校が行われたことも同じでした。基本的な対策だから変わらないのでしょうか?そうだとしたら少なくとも新しい対策がもっと加わるべきではないでしょうか。医学が100年間で飛躍的に発展しているのですから。


次にWHOのパンデミックに関する対応を検証してみましょう。

WHOは2009年にパンデミック宣言に至る段階区分を発表しました。

フェーズ1~4は動物において感染症ウイルスが発生し、インフルエンザウイルスが人に感染するに至る段階

フェーズ5:1か所のWHO地域で2か国以上でウイルスの人ー人感染拡大が認められた状況、パンデミックが目前に迫っている事を意味し、迅速な対策が求められる状況。

フェーズ6:フェーズ5に引き続き、さらに他のWHO地域で、人ー人感染が認められている状況、ウイルスが、世界中に拡大していることが示唆されている。

これを見ると現在の新型コロナウイルスの状況はフェーズ6に該当しWHOのパンデミック宣言が出てもよい段階だと云えますが、事情があって2013年6月に改定案が出ていたのです。

その事情とは、2009年にメキシコから米国南部に発生した豚インフルでした。2009年6月にWHOはフェース6のパンデミック宣言を出したのですがこれが空振りに終わり、各国のワクチン大量購入が製薬メーカーを儲けさせただけで、無駄になったのです。WHOは各国から猛烈な批判を受けました。

WHOはこの苦い経験から2013年6月に改定案を発表しました。改正案は具体的推移の定義を避け次のような表現となりました。

間欠期>警戒期>パンデミック期>移行期>間欠期
ここで規定されたパンデミックス期は「対策実施期」としか定義されておりません。具体的な運用はWHOの判断にゆだねられたのです。しかし現実的には2009年の「フェーズ6」が適用される可能性が強いでしょう。

3/08の世界の新型コロナウイルス感染状況は次の通りです。

国別(死亡数/感染数)
中国 3,098/80,703
イタリア 366/7,375
イラン 194/6,566
韓国 50/7,313
アメリカ 21/493
フランス 19/1,126
スペイン 17/673
クルーズ船 7/696
日本 7/502
イラク 6/60
ドイツ 0/1,040

感染国は101ヵ国に及んでおります。これは「フェーズ6」に該当する状況ではないでしょうか。4月までに流行が収まらなければWHOがパンデミック宣言を出す可能性が高まります。一旦宣言が出れば終息宣言が出るまでは東京五輪は開催できなくなります。この場合の経済のダメージは大変なことになります。生活破壊は避けられません。

Bloomberg Businessweekのウイルス感染グラフ

縦軸:死亡率
横軸:1人の感染発症者が何人に感染を広げるかを示す

新型コロナウイルスとスペイン風邪の共通点に注目

上図では両者の共通点がいくつかあることに気付かれるでしょう。医療技術は100年前とは大きな差があり共通点があるとは思えませんが、この図は最近作られたものです。

感染者数が正確ではないので発症者としたこと、ワクチンや治療薬の見通しが立っていないことも共通点かもしれません。将来を考えると、発症者を基準にする方が正確なのかもしれません。

一般的にインフルウイルスは多種あり、H1N1型、H5N1、H7N9、及びそれらの数々の変種等「人-人感染」もある品種に特定して起こるものとは言えないようです。

大正時代の内務省告示(上記)によれば、人の集まりや患者への濃厚接触を避けるよう警告していることから見てもスペイン風邪には「人-人感染」があったと判断されます。そうだとすれば、これが最も重要な共通点と云えるでしょう。

いずれにしてもこのグラフは、我々に重要な示唆を与えるものだと思います。

次回は経済への影響に関する情報を集め、ご報告するつもりです。

マスクの大群

新型コロナ対策の急激な強化は経済活動の低下を招きます。経済活動の低下は生活破壊につながるのです。だからと云って感染対策をやらないわけにはいかないでしょう。

感染対策と経済を両立させて守る道は大変狭く、従ってより効率的な運用が求められています。
最悪の対策とは、潜在的感染を見逃し対策が遅れた状況を糊塗するため、やみくもに強引な手法で対策することです。

今まさに日本のリーダーはこの道をひたすら歩んでいます。これでは感染拡大と経済破綻のダブルパンチに見舞われる恐れが強くなるでしょう。何度も云っているようPCR検査を制限したことが禍の元です。

韓国では、ある宗教団体から感染が急拡大したと云われています。日本でも同様なことが起こるのではないでしょうか。政府がいくら集会の自粛を喧伝しても、日本のある新興宗教は全国に支部を持ち「祈りなさい、そうすればコロナは退散するでしょう」「マスクは要りません」などと教祖が説教しております。このような宗教団体は感染源になる可能性が強いと思います。盲点ではないでしょうか?

この他中国では 浙江省や湖北省の刑務所での感染者が多数出ていることも注目しておくべきです。刑務所は正に密閉空間の典型的事例なのです。葬式や満員電車など日本独特の密閉空間があることも要警戒です。更に風俗店からの感染などアングラ市場の存在も考慮する必要があります。

特に、パチンコ屋が営業を止めるかどうかに注目しておくのも有力な判断材料となるでしょう。

感染拡大と経済恐慌への波及はタイムラグがあり感染のパンデミックが収まった後にも経済活動停止の影響がしばらく残ることに留意する必要があるでしょう。

最近厚労省の大臣などはPCR検査を拡充すると公表している。ところが同じ厚労省の一部の専門家や、内閣府、国立感染症研究所のOBなどから「検査は意味ない、軽症者には検査しない」と云った声が盛んに聞かれるようになっております。北海道までわざわざ出かけていき検査妨害をする動きまで出ています。

何が何でも検査を否定する動きはマスコミや一部の医師の間でも見受けられます。中には「密閉空間のクラスターには重症者が増えるが、そうでないクラスターには重症化は見られない」などと一見当たり前の主張をする厚労省の専門家まで現れました。ダイヤモンドプリンセス号で既に証明された当たり前のことをわざわざこの期に及んで主張する意図は何か、これもやはり「密閉空間さえ避ければ大丈夫だ従って検査は軽症者には必要ない」ということに結び付ける意図が窺い知れます。

しかし一方、N95と云う医療用マスクが不足しているので「厚労省の検査体制の拡充が整ったとしても末端のクリニック等で検査ができない事情がある」と云うクリニックの医師からのうったえも出ております。

アビガンやレムデシビル(エボラっ出血熱の治療薬)が新型コロナウイルスの治療に効果があり、WHOから臨床治験の結果が3月中に出るとのアナウンスも出ているようです。更に、神奈川県衛生研と理研の共同研究で、「スマートアンプ法」と云って検査時間の大幅な短縮と検査能力の増加が期待できる開発が達成間近」とのニュースも流れてきております。

極度の悲観的観測と、政治的思惑を入れない良いニュースが入り乱れていてもう少し冷静に事態の推移を見ないと正しい判断はできないと云うのが現時点での偽らざる分析結果です。 「どんな情報も否定するな」そして「どんな情報も鵜呑みにするな …」と云う姿勢で見ておくしかないと思います。


以下、東洋経済オンライン2020/02/29 の内容は最近読んだ記事の中で最も参考になったものです。

感染爆発の度合いにもよるが、すでにアメリカでは日本に対して渡航注意のレベルを1つ上のレベルに引き上げており、イスラエルでは日本と韓国からの渡航者を入国拒否とした。

それに対して、日本では2月24日現在、外務省の対応は中国の湖北省全域、浙江省恩州市に対しては「渡航中止勧告」となっているが、それ以外の中国は「不要不急の渡航中止」となっている。

外国人に対しての入国規制は、日本の場合かなり曖昧で外務省がきちんとアナウンスしているわけではない。春節の前に中国の新型コロナウイルス感染拡大が明らかになっていたにもかかわらず、外務省は何も手を打たずに莫大な数の中国人観光客の来日を認めた。

クルーズ船の受け入れに対しても、日本人乗客が多い、日本人乗組員も100人いるといった事情を鑑みて入港を認め、検疫という名目で14日間留め置き、その間に600人を超す感染者をクルーズ船の中で発生させてしまった。—-中略

仮に東京五輪が中止となれば、どの程度の経済的損失が発生するか。

東京五輪の経済効果は、東京都の発表で「32兆円」という途方もない数字が発表されているが、この数字には交通インフラの整備やバリアフリー促進といった間接的な経済活動も入っている。いわゆる「レガシー(遺産)」効果だ。

施設整備費や大会運営費、放映料と言った「直接的効果」は約5兆2000億円で、レガシー効果はその5倍の約27兆1000億円。とりあえず、直接的効果だけを考えれば、約5兆円の損失。日本のGDPが約500兆円とすれば、その100分の1を失うことになるわけだ。—-中略

マイナス要因としては、輸入物価の急激な上昇だ。日本は世界から莫大な量の食料品や石油などのエネルギーを輸入しているが、これらが円安の影響で急騰することになる。本来であれば、こういうときこそ日銀が金融緩和をすべきなのだが、現在の日銀にはその余力がない。マイナス金利拡大は、かえって社会を混乱させる可能性が高い。SARSのときは、日銀は2回金融緩和を実施できたものの、いまその余地は少ない。

打つ手を持たない日銀のために必要なのは、政府はイタリアや韓国がやったような積極的な感染症対策だろう。厚生労働省が、新型コロナウイルスのPCR検査の保険適応をいまだに認めていない現状は、感染者を野放しにしておくのと一緒だ。—-中略

最悪のシナリオ:日本の「武漢化」で全土が封鎖!健康保険、年金資金が枯渇する?

このシナリオが最悪のケースと言える。安倍政権の対応が遅れて、日本に感染爆発が起こり、医療システムが崩壊。日本のあちこちが中国・武漢と同じような状況になってしまうというシナリオだ。サプライチェーンの停滞で海外からの物流は途絶え、食糧不足などの物資不足に陥ることになる。

それどころか、日本中で企業活動が滞り、観光や娯楽といったサービス業も壊滅的なダメージを受けることになりかねない。海外からのヒト、モノ、マネーも遮断され、日本の輸出入もストップしてしまう。日本経済にとっては、まさに正念場となり、株価は底なしで下落する可能性がある。

ちなみに、医療システムの崩壊が指摘されている武漢市の致死率は4.9%、中国全体の平均致死率2.1%を大きく超えている。国土が狭く、人口密度の高い日本で感染爆発が起これば、まさに大惨事になるわけだ。

日本で限定的な感染爆発が起きた場合、経済的な損失は計り知れない。ただ、東日本大震災があった2011年のGDPは、震災被害の規模を16兆~25兆円、GDPを最大0.5%押し下げると、当時の内閣府が震災直後に発表した。

実際には、2011年度のGDPはプラス0.4%となり、かろうじてプラスを保っている。リーマンショックは、2008~2009年にかけて最大マイナス3%程度まで下落しており、金融危機のほうが実体経済に与える影響は大きいことを物語っている。—-中略

一方、新型コロナウイルスの感染爆発は別の不安を生み出す。医療システムの崩壊など国民の生活が壊滅的なダメージを受ける可能性があるのだ。

日本で感染爆発が起これば株価が大暴落し、その株式市場に莫大な資金を投資していた年金資金などクジラと呼ばれる公的資金が致命的な打撃を受ける。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も莫大な損失を出してしまうかもしれない。

高齢者の生活を支えている年金制度が資金不足となり、年金制度の崩壊=国民の生活が破綻するということだ。

クルーズ船で4000人の対応に苦慮していた自民党政権に比べて、数十万人単位の被災者が出た東日本大震災では、市町村、都道府県にある程度の権限を委譲して、対応できたことを考えると、現在の自民党の姿は国民不在の姿勢が目立つ。自民党政権が目指すような中央集権型の危機管理には限界があると言っていいだろう。

そういう意味でも 今後の日本の行方は極めて不透明と言っていい。

PCR検査も、安倍政権を擁護する評論家などが「パニックになるからダメだ」という表現をしていたが、東日本大震災時と同様の危機感をいかに持てるか。まさに危機管理の問題だ。ここでの対応を誤れば、もっとすさまじいパニックになることも想像したほうがいい。

東洋経済オンライン 2020/02/29 より

東洋経済オンラインでは最悪のシナリオの中で「ひょっとしたら来月の今頃は、感染者数が激減して通常どおりの状況に戻っていくというシナリオも考えられる。」とも云っていることを付け加えておきます。

こちらの動画も参考になると思います。